取引先からの未払いに備える手段の一つとして「債権譲渡担保」が挙げられます。
債権譲渡担保を設定することで、たとえ入金が滞った場合でも、売掛債権を確実に回収することが可能です。
これにより、手元資金の不足によるキャッシュフローへの悪影響を抑えることができます。
しかしながら、債権譲渡担保には注意すべき点が存在し、これらを理解していないと売掛債権の回収が困難になる恐れがあります。
そこで本記事では、債権譲渡担保の基本的な仕組みや、混同されやすい「債権質」や「売掛債権担保融資」との違いについて解説します。
また、債権譲渡担保を活用するメリットや具体的な手順、注意点についてもまとめていますので、利用を検討されている方はぜひご参考ください。
相手方の債権を担保として利用する「債権譲渡担保」とは?
債権譲渡担保とは、自社が持つ取引先への債権(売掛金や貸付金など)に対し、未回収リスクを軽減するために、その取引先が有する債権を担保として設定する方法です。
債権譲渡担保のメカニズム
具体例を用いて、債権譲渡担保のメカニズムを説明します。
例えば、自社が提供した資材を元に取引先Aが製品を製造し、その製品を顧客Bに販売するケースを考えます。債権譲渡担保を設定しておくと、取引先Aからの支払いが滞った際に、自社は顧客Bから直接、売掛金を回収することができます。これが債権譲渡担保の基本的な仕組みです。
なお、取引先Aから期日通りに支払いが行われた場合は、顧客Bからの回収は行いません。
ここで、自社から見た顧客Bは「第三債務者」と呼ばれます。
債権譲渡担保の対象となる債権
債権譲渡担保の対象となるのは売掛債権だけでなく、以下のような債権も含まれます。
- A社がB社から建物を借りている場合:敷金返還請求権
- A社がB社に資金を貸し付けている場合:貸付金返還請求権
- A社がB社にサービスを提供している場合:報酬請求権
担保とする債権を明確に特定しないと、無効と判断される可能性があるため、対象となる債権をしっかり把握しておきましょう。
「債権質」との相違点
「債権質」は、債権を質物として差し出す方法です。
両者とも債務履行を確保するための手段ですが、債権譲渡担保と債権質の主な違いは以下の通りです。
- 権利の移転の有無
債権譲渡担保では、債権そのものが担保として移転しますが、債権質では債権自体は移転せず、質入れするだけです。 - 担保にできる債権の種類
債権譲渡担保は、将来発生する債権も担保に含めることができますが、債権質では将来債権を担保にすることはできません。 - 担保権の効力の範囲
債権譲渡担保では、債務不履行が発生した場合に、譲渡された債権の回収権を行使します。一方、債権質では、質権者が担保権を持ち、債務不履行時にその権利を行使します。
このように、両者は異なる手法であるため、混同しないよう注意が必要です。
「売掛債権担保融資」とは
債権譲渡担保と混同しやすいものに「売掛債権担保融資」があります。
売掛債権担保融資とは、自社が保有する売掛債権や在庫を担保に、金融機関から資金を借り入れる制度です。
売掛債権の保全方法としては「売掛先への通知」「売掛先の承諾」「債権譲渡登記」の3つがありますが、債権譲渡登記を利用すれば、売掛先に知られることなく手続きが可能です。
資金の流れを比較すると、債権譲渡担保では以下の通りです。
自社 ← 取引先A ← 顧客B
一方、売掛債権担保融資の場合は以下のようになります。
金融機関 ← 自社 ← 取引先A
このように、両者は仕組みが異なるため、混同しないよう注意しましょう。
債権譲渡担保が活用される具体的な場面
例えば、メーカーである自社が卸売業者に商品を納品し、卸売業者が小売業者に再販する場合を考えます。卸売業者からの入金に不安がある場合、債権譲渡担保を設定することで、卸売業者が小売業者に対して有する売掛金債権を担保にすることができます。
これにより、万が一卸売業者からの支払いが滞った場合でも、小売業者から直接売掛金を回収することが可能となります。
債権譲渡担保を設定することの利点
では、債権譲渡担保を設定することで得られるメリットとは何でしょうか。
取引先の将来の債権も担保にできる
債権質では将来発生する債権を担保にできませんが、債権譲渡担保では可能です。
これにより、担保として利用できる債権の範囲が広がります。
支払い遅延時でも売掛債権を確保できる
取引先の支払いが遅れる理由として、経営状況の悪化が考えられます。
このような場合、催促してもすぐに入金が見込めないことがあります。
取引先からの入金が遅れると、自社の資金繰りにも影響を及ぼす可能性があります。
債権譲渡担保を設定しておけば、取引先からの支払いが滞った場合でも、第三債務者から直接売掛金を回収することができます。
取引先が倒産しても売掛金を回収できる
取引先が倒産した場合、売掛債権の回収は非常に困難になります。
回収できたとしても、全額を取り戻すのは難しいでしょう。
しかし、債権譲渡担保を設定していれば、取引先が倒産しても第三債務者から売掛金を回収することが可能です。
これにより、貸倒れリスクを大幅に軽減することができます。
債権譲渡担保を設定する手順
ここでは、債権譲渡担保を設定する具体的な手順を解説します。
1. 担保とする債権を選定する
まず、担保に設定する債権を選びます。
取引先との協議が必要となるため、債権の金額や条件を考慮して決定しましょう。
2. 債権譲渡担保契約書を作成する
次に、債権譲渡担保契約書を作成します。
この契約書には、債権譲渡担保の条件や詳細な取り決めを明記します。
契約書に記載する主な内容は以下の通りです。
- 契約当事者の情報(債務者と担保権者の名称、所在地、契約締結日)
- 担保とする債権の特定(債権の種類、金額、発生原因、将来債権の場合は期間など)
- 債権譲渡担保の条件(担保権者の権利と義務、債務者の義務など)
- 担保設定の方法(登記手続きや通知方法など)
- 不履行時の取り扱い(担保権の実行方法、取立権限の消滅など)
- その他の条項(契約の解除条件、免責事項など)
契約書は双方の利益を守るため、詳細に取り決めておくことが重要です。
3. 対抗要件を具備する
対抗要件とは、債権譲渡が第三者に対しても有効であることを主張するための要件です。
取得方法には「第三債務者への通知」と「債権譲渡登記」の2つがあります。
対抗要件を備えておかないと、第三債務者からの支払いを受けられない可能性がありますので、必ず取得しておきましょう。
4. 支払い遅延時に債権譲渡担保権を実行する
取引先からの入金が遅れた場合、債権譲渡担保権を実行します。
第三債務者への通知方法は、対抗要件の取得方法によって異なります。
内容証明郵便で通知した場合は、債権譲渡担保権の実行と振込先情報を記載した通知書を第三債務者に送付します。
債権譲渡登記を行った場合は、登記事項証明書を添付して通知書を送付します。
債権譲渡担保を利用する際の注意点
債権譲渡担保を設定する際には、以下の点に注意が必要です。
- 担保とする債権を明確に特定する
- 債権譲渡禁止特約がないか確認する
- 対抗要件の取得方法を事前に決めておく
- 他の債権者との優先順位に留意する
- 不払い時の取り決めを契約書に明記する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
担保とする債権を明確に特定する
債権を特定しないと、債権譲渡担保が無効とされる可能性があります。
契約書には「債権の種類」「金額」「発生原因」「将来債権の場合は期間」などを詳細に記載しましょう。
債権譲渡禁止特約がないか確認する
債権譲渡禁止特約が設定されている場合、債権を譲渡することが制限されます。
債務者の承諾がある場合や、取引先が倒産した場合など、一部例外はありますが、基本的には譲渡が難しくなります。
契約前に必ず確認しましょう。
対抗要件の取得方法を事前に決めておく
対抗要件の取得には取引先の協力が必要です。
「第三債務者への通知」か「債権譲渡登記」のどちらを選ぶか、事前に取引先と相談して決めておきましょう。
他の債権者との優先順位に留意する
取引先には自社以外にも債権者が存在する可能性があります。
複数の債権者が同じ債権を担保にしようとする場合、優先順位の争いが起こることがあります。
対抗要件を早めに取得し、優先権を確保することが重要です。
不払い時の取り決めを契約書に明記する
不払いが発生した際の対応を契約書に明記しておくことで、スムーズに債権回収が行えます。
特に、取引先の取立権限の消滅については明確に記載しておきましょう。
まとめ
債権譲渡担保は、取引先からの売掛金の未回収リスクに備える有効な手段です。
取引先からの入金が滞った場合でも、第三債務者から直接売掛金を回収することができ、自社の資金繰りへの影響を最小限に抑えることができます。
また、取引先が倒産した場合でも、事前に債権譲渡担保を設定しておけば、売掛債権を回収できる可能性が高まります。
ただし、債権譲渡担保を設定するには、取引先との協議や契約書の作成、対抗要件の取得など、時間と手間がかかります。
こうした手間を省き、迅速に資金調達を行いたい場合は、ファクタリングの活用も検討すると良いでしょう。
ファクタリングは、自社が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、早期に資金化するサービスです。
取引先の信用力に依存せず、手続きも比較的簡便なため、資金繰りの改善に役立ちます。
以上、債権譲渡担保の概要やメリット、注意点について解説しました。自社の状況に合わせて最適な方法を選択し、健全な資金運用を目指しましょう。