売掛先が経営不振や倒産に陥ると、売掛金の回収が遅延したり、場合によっては不可能になることもあります。
売掛先に資金がなく、売掛金の回収が望めない状況で、そのまま残しておくと、自社の課税額が増えるなど不利な影響が発生する可能性があります。
そのような場合、検討すべき一つの選択肢が「売掛債権の放棄」です。
この記事では、売掛債権を放棄することによる利点や、実際の手続き方法について詳しく解説します。
ぜひ参考にしてください。
売掛債権の放棄とは?
売掛債権の放棄とは、売掛先の同意に関係なく、債権者の判断で債務を無効にする手続きを指します。
売掛先が支払い不能の場合、売掛金の回収を断念するという選択肢もあります。
債権を放棄することで、本来は回収できるはずだった収益がなくなるため、その決断には慎重さが求められますが、回収が見込めない状況では放棄することによって得られる利点もあります。
ここでは、売掛債権の放棄がもたらす利点や留意点について説明します。
回収が難しい場合の債権保有
回収が望めない売掛金を保持したままにすると、帳簿上は資産として記録され続けます。
その結果、資産として計上された売掛金は、株価に影響を与える可能性があるほか、税金の対象にもなるため、実質的に価値がない売掛金に対して無駄な税金が発生してしまいます。
このため、回収が不可能と判断した売掛債権については、放棄を検討することが重要です。
売掛債権の放棄の検討方法
売掛先が経営不振や倒産してしまった場合など、売掛金の回収が難しいと予想される状況では、売掛債権の放棄を検討すべきです。
また、売掛債権の一部のみを放棄する選択も可能です。全額の放棄が適切か慎重に判断しましょう。
判断を行う際には、売掛先の資産状況を弁護士に調査依頼したり、放棄後の税務手続きを税理士に相談するのが安心です。
売掛債権を放棄することの利点
売掛債権を放棄すると、その分の売掛金は損失(損金)として計上することが可能です。
回収が困難な債権を損金とすることで、税額が減り、節税効果が期待できます。
売掛債権を放棄する際の留意点
売掛債権の放棄は、本来であれば回収されるべき売掛金を放棄する決断を意味します。
そのため、確実に回収できないのか、また放棄しても問題がないのかを慎重に判断する必要があります。
専門家の知見を活用しながら、部分的にでも回収が可能かを検討し、可能性がある場合は必ず回収手続きを行いましょう。
貸倒損失として認められる三つの状況
貸倒損失とは、売掛金の回収が不可能な場合に、その未回収分を損失として処理できるものです。
売掛債権が回収できなかった場合、すべてのケースで貸倒損失が認められるわけではありません。貸倒損失として認められるためには、「法律上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」のいずれかのケースに該当する必要があります。
ここからは、それぞれのケースについて詳しく説明していきます。
法律上の貸倒れ
法律や協議に基づいて債権が無効化された場合、これが「法律上の貸倒れ」に該当します。
- 会社更生法や民事再生法により、債権が消滅したケース
- 債権者同士の協議や、行政機関や金融機関の仲介による合意で放棄金額が決まった場合
- 債務放棄を通知した場合
これらのケースにおいては、貸倒損失として計上が認められます。
事実上の貸倒れ
売掛先が倒産や深刻な経営不振に陥り、全額の回収が見込めないと判断した場合、「事実上の貸倒れ」に該当します。
このケースでは、債権の全額を損失に計上することが可能ですが、保証人がいる場合は保証人からの回収を試みた後でないと、貸倒損失として認められないので注意が必要です。
形式上の貸倒れ
長年取引が続いていた売掛先の経営状態が悪化し、1年以上の取引停止が続き、かつ支払いが行われない場合、「形式上の貸倒れ」となります。
また、回収に必要な経費が債権の合計額を上回る場合も、実質的に回収が困難とされ、この形式上の貸倒れに分類されます。
この場合には「備忘価額」を設定することによって、貸倒損失として計上することができます。
売掛債権を放棄するまでの手順
売掛債権を放棄するためには、回収が不可能であることを証明する必要があります。
回収が可能であるにもかかわらず債権を放棄してしまうと、その分が贈与とみなされ、寄付金として扱われてしまうことがあるためです。
売掛債権の放棄を行う際には、売掛先への請求や財務調査など、各プロセスを記録しておく必要があります。
1. 取引先への支払い催促
まず、一般的な方法で、電話やメールを使って支払いを催促します。
売掛先の担当者が対応に消極的な場合は、催促状を送付するなどしてプレッシャーをかける方法も有効です。
2. 財務状況の確認
売掛債権の放棄を決断する前に、売掛先の財務状況を確認しておくことが重要です。
支払い能力があるのに意図的に支払を遅延している場合もあり、このような状況では放棄が認められないからです。
一般的には、売掛先が3年以上にわたって債務超過の状態にある場合に債務放棄の条件が揃っていると見なされます。
3. 内容証明郵便での意思表示
債権放棄を行う際は、内容証明郵便を使って正式に意思を通知し、債権放棄が客観的に確認できる状態にしておくことが大切です。
書類は、自社と売掛先、郵便局の三者がそれぞれ保管しておくと良いでしょう。
税務申告の際にこの内容証明郵便の控えが必要となるので、普通郵便やメールのみでの通知は避けるようにしてください。
4. 必要な書類の準備と保管
後々の貸倒損失の認定においてトラブルを避けるために、会社更生手続きの開始通知や、債権者集会の決定書、債権放棄通知などの必要書類を揃えておきましょう。
万が一に備え、保管場所をしっかり把握しておくことも重要です。
回収が可能な場合はどうするべきか
売掛先の財務状況を調査した結果、売掛金の回収が期待できる場合があります。
回収可能な場合、貸倒損失として処理はできないため、あらゆる手段を駆使して回収を試みる必要があります。
ここでは、売掛金を回収する手段について説明します。
法的手段による売掛債権の回収
売掛先が資産を保有しているにもかかわらず支払いを避けている場合、法的手段を用いて売掛金の回収を試みることが可能です。
民事保全手続きを行う、または訴訟を起こして支払いを求めるなどの方法により、回収できる可能性が高まります。
法的手段を講じる場合には、証拠が必要になるため、専門家のアドバイスを受けながら証拠を集めて進めることが推奨されます。
強制執行による売掛債権の回収
法的手段を取った結果、売掛先が支払いに応じない場合や、裁判所から債務名義を取得した場合には、強制執行手続きに進むことが可能です。
この手段では、相手の財産を差し押さえることで売掛金を回収しますが、手続きには費用と時間がかかる点に留意が必要です。
売掛債権の時効について
売掛金はいつまでも回収を求められるわけではなく、法定の時効が存在する点に注意が必要です。
売掛金の時効は、支払期限の翌日から5年とされています。この期間を過ぎると、回収が法的に難しくなります。
時効に時間が残っている場合でも、売掛先の状況によって回収が難航することがあるため、迅速な対応と専門家の協力を得て対応することが大切です。
まとめ
回収が難しい売掛債権を放置しておくと、帳簿上の資産として計上され、課税対象となってしまいます。
節税の観点からも、売掛債権の放棄を検討するのは有効ですが、内容証明の用意や、売掛先の財務調査など、慎重な準備が不可欠です。
手続きが正確でないと、企業として損失を被る恐れもあるため、弁護士や税理士などの専門家と相談しつつ、慎重に進めることが求められます。