事業資金の借入を行う際に、重要視すべき点は返済スパンです。
「返済期間をできる限り延長すべきだ」と考える方もいらっしゃいますが、短期と長期の返済期間にはそれぞれ利点と課題が存在します。
本記事では、資金調達を行う前に確認しておくべき事項として、短期借入と長期借入の特性、資金の用途、そして日本政策金融公庫の資金支援に関する詳細について解説します。
返済期間が短い「短期借入」
短期借入とは、返済期間が1年未満の借入金のことです。
主に運転資金など、短期間での返済が可能なビジネスファイナンスに適しています。
資金調達の手段としては以下の3つがあります。
ファクタリング
取引で得た売掛金を金融機関に売却し、即座に資金を調達する方法です。
金融機関は売掛金から手数料を差し引いて資金を提供するため、売掛金の全額を受け取ることはできません。
しかし、手形の期日前に資金化できる点は大きなメリットです。
ただし、申込者と売掛先の信用力が双方で審査されるため、信用力が低い場合はファクタリングが利用できないこともあります。
さらに、ファクタリングを利用したにもかかわらず不渡りとなった場合、金融機関は申込者に対して売掛金の買戻しを要求する権利(買戻請求権)が発生し、申込者はこれを履行しなければなりません。
ファクタリングを活用する際は、この点を念頭に置いておくことが重要です。
手形貸付
金融機関に約束手形を提示して資金を調達する方法です。
手形が担保となるため、他の方法と比べて審査が迅速に行われる傾向があります。
また、1年以内の短期借入であるため、長期借入に比べ金利が低めに設定されています。
ただし、手形の期日までに返済が完了しない場合、信用力が低下し、次回以降の資金調達が難しくなるリスクがあります。
当座貸越
金融機関と当座貸越契約を結び、定期預金などを担保にすることで、契約期間中に必要に応じて資金を引き出せる方法です。
限度額内であれば、自由なタイミングで借入や返済が可能です。
ただし、自由度が高い分、金利が高めに設定されることや審査基準が厳しい点に注意が必要です。
また、契約更新時に財務状況が悪化している場合、契約の継続が拒否され、一括返済が求められることもあります。
返済期間が長い「長期借入」
長期借入とは、返済期間が1年以上の借入金のことです。
主に設備投資などの固定資産購入や、運転資金を長期的に返済したい場合に利用されます。
長期借入の資金調達方法としては以下の1つがあります。
証書貸付
金融機関と借入者が金銭消費貸借契約を結び、資金を借り入れる方法です。
契約書に記載された金額を借入れ、毎月の返済額が一定となるため、長期にわたる資金繰りが容易です。
しかし、返済期間中に財務状況が悪化すると、返済が困難になるリスクがあります。
融資を受ける際に重要となる事業資金の用途
事業資金の用途は「設備投資」と「運転資金」の2つに分類されます。
設備投資
設備投資とは、企業活動に必要な固定資産を購入するための資金です。
例えば、業務用のコンピュータやシステム、営業車両、オフィスの敷金などが含まれます。
業種によっては、椅子やテーブル、冷蔵庫、重機なども該当する場合があります。
運転資金
運転資金とは、事業運営に必要な日常的な資金を指します。
具体的には、オフィスの家賃や商品仕入れ費用、人件費などが挙げられます。
運転資金には以下の4つの種類があります。
経常運転資金
経常運転資金とは、事業を運営する上で常に必要となる資金で、「売掛金+棚卸資産−買掛金=経常運転資金」で計算されます。
毎月の売上が変動するため、長期的な視点で経常運転資金を計算することが重要です。
増加運転資金
増加運転資金とは、事業拡大の過程で必要となる資金です。
具体的には、増加した人件費や仕入れ費用を指します。
売上が増加すると人件費や仕入れ費用も増加するため、売掛金の回収が1〜2ヶ月遅れることが多く、増加運転資金が必要となります。
増加運転資金の調達ができないと、売上が増加しても手元資金が不足し、「黒字倒産」のリスクが高まります。
減少運転資金
減少運転資金とは、売上が減少した際に給与や仕入れ代金の支払いが困難になる場合に必要となる資金です。
たとえ売上が減少しても、家賃や人件費、仕入れ費用などの固定費は毎月一定額必要です。
売上が減少すると固定費の支払いも難しくなるため、企業は資金繰り表などを活用してキャッシュフローを管理することが重要です。
季節運転資金
季節運転資金とは、特定の季節に必要となる運転資金です。
例えば、賞与の支払い、税金の納付、エアコンの購入費用など、特定の時期に一時的に増加する支出をカバーするために必要です。
起業時に活用したい日本政策金融公庫の資金支援
日本政策金融公庫とは、国が100%出資する政府系金融機関です。
「国民生活金融公庫」「中小企業金融公庫」「農林競業金融公庫」「国際協力銀行」などの政策金融機関が統合されて設立されました。
中小企業や農林漁業者向けのビジネス資金の貸付、教育ローンなどの教育資金の提供、さらに支援や情報提供なども行っています。
日本政策金融公庫の3つの機能
日本政策金融公庫は、「セーフティーネット機能の発揮」「日本経済成長・発展への貢献」「地域振興への貢献」の3つの役割を担っています。
まず、セーフティーネット機能の発揮とは、自然災害や経済環境の変動などによる緊急の資金ニーズに柔軟に対応することです。
次に、日本経済の成長と発展に寄与するため、新規事業の創出、事業再生、海外進出、農林水産業の発展などのニーズに適切に対応します。
最後に、地域振興への貢献とは、民間金融機関と連携し、地域プロジェクトに参画するなどして地域の活性化を支援することです。
日本政策金融公庫の資金支援を利用する利点
日本政策金融公庫の資金支援を利用するメリットは、以下の5点です。
- 起業前でも申請が可能
- 無担保・無保証の資金支援制度がある
- 創業初期段階でも資金を得やすい
- 民間金融機関よりも長期の返済スパンが設定されている
- 低金利が適用される
日本政策金融公庫での資金支援を受けた際の返済期間
日本政策金融公庫からの資金支援を受ける場合の返済期間は、資金の用途によって異なります。
設備投資資金
資金の用途がオフィスの内外装工事や椅子・テーブルの購入、営業車の取得などの設備投資である場合、原則として10年以内の返済期間が設定されます。
特定の設備に該当する場合、最長で20年まで延長される可能性があります。
運転資金
資金の用途がオフィスの家賃や仕入代金、人件費などの運転資金である場合、原則として5年以内、必要に応じて7年以内に返済期間が延長されることがあります。
まとめ
事業資金の借入において重要な返済期間は、主に資金の用途によって異なることが理解できました。
一言で「事業資金」と言っても多様な用途が存在するため、資金調達を行う前に用途や返済期間についてしっかりと計画を立てることが不可欠です。