企業の資金の流れを整理した資金繰り表は、その用途から、金融機関への融資を申し込む際に提出が求められることがあります。
具体的には、金融機関が融資審査に必要な書類の一つとして資金繰り表を提示するよう依頼してくる場合があります。
そのため、融資の計画がある場合に備え、あらかじめ作成しておくことが推奨されますが、資金繰り表を作るべき理由はこれだけに留まりません。
本記事では、資金繰り表の基本概要、融資申請時の手続きと求められる書類、銀行提出用の資金繰り表を効率的に作成するコツ、さらに経営活動における資金繰り表の活用事例について解説します。
ぜひ参考にしてください。
資金繰り表とはどのような資料か?
資金繰り表は、企業の資金の動きを月単位で明示するための帳票です。
この帳票を活用することで、収入と支出の差額や、預金残高、資金が不足しそうな時期を事前に見通すことが容易になります。
資金繰り表を作成することの主な利点
資金繰り表を作成することには、大きく分けて以下の3つの利点があります。
資金の流れを管理し、改善策を立てやすくする
資金繰り表があることで、資金の流れを詳細に把握できるようになります。
たとえば、「売掛金の回収サイクルが長い」といった問題点に気づけるため、「回収サイトを短縮できないか交渉する」「融資を含む資金調達手段を検討する」など、資金不足を防ぐための具体的な対応策を取れるようになります。
黒字倒産を防ぐ
黒字倒産とは、会計上では黒字にもかかわらず、実際の資金不足で必要な支払いが滞り、結果として倒産に至る事態を指します。
株式会社東京商工リサーチの2023年4月の調査によると、2022年に倒産した企業のうち約37%が黒字倒産だったことが報告されています。
このような事態を避けるためには、手元の資金がどの時点で不足するかを把握し、計画的に支払いを管理する必要があります。
資金繰り表を用いれば、資金の増減を視覚的に確認できるため、黒字倒産のリスクを軽減することが可能です。
銀行融資での提出書類として重要
銀行融資の審査では、融資が本当に必要で、かつ返済能力があるかどうかを確認することが重視されます。
この際、銀行側が資金繰り表の提出を求める場合があります。
普段から資金管理を徹底している企業と見なされれば、融資審査において有利になることが期待されます。
キャッシュフロー計算書との違い
キャッシュフロー計算書は、企業活動の資金の流れを1年単位でまとめた書類です。
一方、資金繰り表は将来的な資金の動きを詳細に把握するための資料です。以下に両者の違いを整理します。
項目 | 資金繰り表 | キャッシュフロー計算書 |
---|---|---|
資金範囲 | 将来を含む資金の流れ | 過去の資金の流れ |
記載内容 | 詳細に記入 | 一般的に記載しない |
作成義務 | 義務なし | 大規模法人に義務あり |
銀行融資を申し込む際のステップと必要書類
先述のとおり、銀行融資を受ける際には資金繰り表の提出が求められる場合があります。
ここでは、銀行融資を申し込む際の基本的な手順と、必要となる書類について詳しく解説します。
金融機関への融資申請時の主要な流れ
金融機関に融資を申し込む際には、次のような一般的な流れが存在します。
1. 融資申請
最初に行うのは、融資の申し込み手続きです。
通常、金融機関の窓口を訪れる形が一般的ですが、既に取引のある担当者がいる場合や紹介を受けた担当者がいる場合は、直接相談することも可能です。
また、近年ではオンラインで融資申請が可能な場合もあるため、事前に利用可能な手段を確認しておくと良いでしょう。
2. 必要書類の提出と面談
次に、金融機関から指定された書類を提出します。
具体的には、資金繰り表や決算書、試算表、事業計画書などが求められるケースが多く、書類の準備に時間を要することもあります。
そのため、必要な書類を事前に把握し、準備を進めておくことが重要です。
書類を提出した後は、融資担当者との面談が行われます。面談では「融資で調達した資金の用途」や「返済計画の詳細」について質問されることが多いため、準備不足で対応できない場合は審査で不利になる可能性があります。
面談を経た後、金融機関は審査を行い、融資額や金利、返済期間などを決定します。結果が出るまでには数週間から数か月かかることもある点に留意しましょう。
3. 融資実行
審査を無事通過すると、融資が実行されます。
契約書への署名を終えた後、指定の銀行口座に資金が振り込まれる流れです。
なお、融資実行後は返済が始まりますので、返済スケジュールに従って計画的に対応することが重要です。
融資申請時に求められる主な書類
金融機関への融資申請では、以下のような書類が一般的に必要となります。
決算書
企業の財政状況や経営成績を示す重要な資料です。
貸借対照表や損益計算書などが代表的で、銀行側が経営状況を判断するために使用します。
試算表
特定の期間における収益や費用、負債などをまとめた書類で、銀行が直近の財務状況を確認する際に用いられます。
資金繰り表
月単位で資金の収支を整理した資料です。
融資の審査において収支の流れを明確にする目的で提出が求められることがあります。
事業計画書
企業の将来的な成長計画や運営戦略を記した資料です。
銀行は、この書類を通して事業の将来性や返済能力を評価します。
銀行取引一覧表
各銀行との取引内容をまとめた資料で、預金残高や借入金の状況を確認するために提出します。
納税証明書
納税状況を証明する書類で、融資審査時に返済能力を判断する一助として使用されます。
商業登記簿謄本
企業の基本情報(商号、所在地、役員構成など)を記した資料で、銀行側が公式記録を確認する目的で求めることが一般的です。
銀行提出用の資金繰り表は月次で作成するのが基本
銀行融資を申請する際、求められる資金繰り表の形式は主に月次のものが一般的です。
月次の資金繰り表は、数か月先の資金の流れを予測できるため、銀行側が融資先企業の返済可能性を判断するために重要な資料となります。
また、社内で日々の資金状況をより詳細に管理するため、日次の資金繰り表を併用することも推奨されます。
日次の資金繰り表を用いることで短期的な資金ショートのリスクを回避しやすくなるため、資金管理の精度をさらに向上させることができます。
銀行提出用の資金繰り表を作成するポイント
銀行融資を受けるために資金繰り表を作成する際には、どのような点に注意すべきなのでしょうか。
以下では、資金繰り表の作成方法やポイントについて詳しく解説します。
資金繰り表を作成するための手段
資金繰り表を作成する方法は複数あります。以下の手段の中から、自社に適した方法を選びましょう。
テンプレートを活用する
資金繰り表の作成に初めて取り組む際は、何から始めればよいのか迷う場合もあるでしょう。
その場合は、最初からすべてを自作するのではなく、公的機関や民間団体が提供しているテンプレートを利用するのが賢明です。
テンプレートを使うことで基本的な構成や項目が整っているため、短時間で作成を進めることができます。
金融機関提供のテンプレートを利用する
銀行やその他の金融機関が、独自のテンプレートを提供している場合があります。
これらのテンプレートには、計算式が組み込まれていることが多く、入力するだけで自動的に収支が計算される仕組みが整っています。
これを利用すれば、計算ミスを防ぎつつ効率的に作成が進められるでしょう。
会計ソフトの活用
会計ソフトには、資金繰り表の作成機能が含まれているものもあります。
これを利用することで、手動入力や複雑な計算が不要となり、データをもとに自動的に資金繰り表を生成できます。
また、シミュレーション機能が付いている場合は、資金計画をさらに正確に立てることが可能です。
自社用にカスタマイズする
テンプレートをそのまま利用するだけでなく、自社の事情に合わせてカスタマイズすることも大切です。
たとえば、不要な項目を削除したり、追加で必要な項目を盛り込むなど、自社にとって使いやすい仕様に変更しましょう。
資金繰り表には決まったフォーマットはないため、目的に応じて自由に設計して問題ありません。
資金繰り表作成時の重要なポイント
資金繰り表を作成する際には、以下のポイントを意識すると、より精度の高い資料を作成できます。
収支を3つのカテゴリに分ける
企業の収支は、大きく「経常収支」「経常外収支」「財務収支」の3つに分類されます。
これらを正確に分けて資金繰り表を作成することで、収支の流れが明確になります。
- 経常収支:営業活動に関連する収支(例:売上、仕入れ、運営費用など)
- 経常外収支:一時的または非定期的な収支(例:助成金、保険金、設備投資など)
- 財務収支:借入や返済、株式発行など、財務活動に関する収支
経常外収支が少ない企業であれば、経常収支に含めても構いませんが、必要に応じて分けるのが基本です。
半年先までの資金計画を作成する
銀行融資の審査では、短期的な資金状況だけでなく、将来的な返済能力も重視されます。
そのため、最低でも6か月先までの資金計画を見越して資金繰り表を作成することが重要です。
融資をスムーズに受けられるよう、必要なタイミングを考慮した詳細な計画を記載しましょう。
銀行が資金繰り表を確認する際に注目するポイント
銀行が資金繰り表をチェックする際に注目するポイントを理解しておくことで、融資審査に備えた適切な資料作成が可能になります。
資金ショートの可能性
銀行は、融資を行った後に資金不足で返済不能となるリスクを回避するため、資金繰り表から資金ショートの可能性を確認します。
収支が大きく赤字になる月がないか、また返済スケジュールが現実的であるかをチェックされるのが一般的です。
売上と入金額の整合性
銀行は、売上として計上された金額と、実際に銀行口座へ入金された金額の差異がないかを確認します。
売上と入金にギャップがある場合、帳簿の信頼性に疑問を持たれることがあるため、注意が必要です。
売上や経費が現実的であるか
見込みの売上や経費が過度に楽観的ではないかも重要なチェックポイントです。
過去の実績に基づき、合理的な計算に基づいた資金繰り表を作成することが求められます。
資金が大きく動くタイミング
納税や設備投資など、大規模な支払いが発生する時期が明確に記載されているかも確認されます。
銀行はこれらのタイミングに備えて、追加融資の提案や口座サービスの案内を行う準備を整えます。
経常利益での返済可能性
融資の返済が経常利益で無理なく行えるかどうかも重要です。
過剰な借り入れがすでにある場合、新たな融資が難しくなる可能性があるため、この点を意識した資金繰り表を作成することが重要です。
銀行が資金繰り表の提出を求める理由とは?
銀行が資金繰り表の提出を求める背景には、主に以下のような事情があります。
銀行内部の審査業務に必要
融資の審査では、申込企業の財務状況を細かく把握する必要があります。
特に、融資直後に資金ショートが発生し、企業が経営破綻してしまうリスクを避けるため、資金繰り表を確認し将来的な収支計画を判断材料としています。
このため、銀行は資金繰り表の提出を必須書類の一つとすることが一般的です。
資金管理能力の確認
銀行は資金繰り表を通じて、企業の資金管理能力を評価します。
具体的には以下の点をチェックします。
- どのような資金繰り表を使用しているか
- 作成した資金繰り表をどれだけ有効活用しているか
- 何か月先までの収支計画を立てているか
これらを確認することで、経営者が自社の資金繰りを適切に把握しているかどうかを判断します。
資金繰り表が提出されなかった場合、資金管理能力が不十分と見なされる可能性があるため注意が必要です。
急な申し込み時の審査効率化
急な資金不足に対応するために緊急融資を申し込む企業も少なくありません。
銀行はそのような場合でも迅速に融資可否を判断する必要があるため、資金繰り表の提出を求めます。
資金繰り表があることで、短期間で資金不足の原因や収支状況を把握でき、審査プロセスを効率的に進められるのです。
資金繰り表を日常の経営に活用する
銀行提出用に作成した資金繰り表は、日常の経営活動にも役立てることができます。
資金繰り表を活用することで、例えば「利益が出ているにもかかわらず手元に資金が残らない」といった問題に気づきやすくなります。
以下に、資金不足が判明した際の主な資金調達方法を紹介します。
デットファイナンス
デットファイナンスは、負債を増やす形で資金を調達する方法です。代表的な手段は以下のとおりです。
- 銀行融資
- 制度融資
- ビジネスローン
- 不動産担保融資
知人や家族から資金を借りるケースもデットファイナンスに含まれますが、いずれの場合も返済が必要になるため、計画的に活用することが重要です。
エクイティファイナンス
エクイティファイナンスは、株式や出資を通じて資金を調達する方法です。以下のような手段があります。
- 株式発行
- 出資
- クラウドファンディング
この方法は負債を伴わないため、経営が不安定な状況でも利用しやすいという特徴があります。
ただし、投資家が経営に関与する可能性があるため、その点を理解した上で実施することが必要です。
アセットファイナンス
アセットファイナンスは、自社が保有する資産を現金化することで資金を調達する手法です。以下の手段が挙げられます。
- ファクタリング(売掛金の現金化)
- M&A(事業譲渡)
- リースバック(保有資産を売却後に再リース)
この方法は、短期間で資金を調達したい場合に適していますが、売却手数料やコストが発生する点には注意が必要です。
まとめ
資金繰り表は、企業の収支を可視化し、資金繰りを安定化させるために欠かせない資料です。
銀行融資の際に提出が求められるケースが多いため、必要に応じてスムーズに対応できるよう、日頃から準備をしておくことが推奨されます。
また、資金繰り表は経営判断にも大いに役立ちます。資金不足や支払いリスクを事前に把握し、迅速な対応が可能になるためです。
まだ資金繰り表を活用していない企業は、この機会に作成し、経営管理を強化しましょう。